Sakai Medical Stories Vol.7 希少な「エキスパートパネル」実施可能病院として-患者さんの「知る権利」と「知らない権利」に寄り添うゲノム医療の最前線-

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Vol.7 希少な「エキスパートパネル」実施可能病院として-患者さんの「知る権利」と「知らない権利」に寄り添うゲノム医療の最前線-
-大学病院に行かなくても、ここで最高峰のゲノム医療を-
がんゲノムセンター 副センター長 / 専門・認定看護室 師長 好井 理世

がんゲノム医療連携病院として、全国の市中病院でも稀な「エキスパートパネル」の実施体制を構築している堺市立総合医療センター。
2023年に難関の認定遺伝カウンセラー資格を取得した好井師長に、当院がめざすゲノム医療のあり方と、多職種連携による挑戦について話を伺いました。
Q1.認定遺伝カウンセラーとは、どのような役割ですか。
遺伝やゲノムの知識は難解なものが多いため、患者さんやご家族、医療従事者に「わかりやすく伝える」役割が大きいです。
検査はご本人だけでなくご家族にも影響することがあるため、その点も理解したうえで、検査を受けるか受けないかを「ご本人が選べるように意思決定支援をする」。
私はよく「橋渡し」と表現しています。
Q2.認定遺伝カウンセラーの資格をどのように取得されましたか。

近畿大学大学院 総合理工学研究科の修士課程(養成課程)を修了し、2023年に取得しました。
養成課程は2年間で、講義や研究に加えて病院実習があり、卒業後の認定試験に合格して初めて資格が取得できます。
2025年4月時点で全国に約440人と非常に少なく、合格者数は例年30~40人という難関ですが、薬剤師や臨床検査技師、研究者など、多様な背景を持つ人がめざしている職種です。
Q3.「がんゲノム医療連携病院」になるための要件は何ですか。
前提として「がん診療連携拠点病院」である必要があり、そのうえで薬物療法専門医、分子病理医、認定遺伝カウンセラー、遺伝専門医などの体制を整える必要があります。
当院はこれらを満たし、中核病院と連携しています。
Q4.当院は「エキスパートパネル実施可能病院」でもあるのですか。
はい。
エキスパートパネルは専門家が集まり、遺伝子検査結果から最適な治療法や治験の可能性を検討する会議のことです。
高度な体制が必要で、市中病院でこの認定を取得しているのは全国でも極めて稀であり、周囲の関係者からも驚かれます。
Q5.院内に遺伝のスペシャリストは他にもいますか。
医師では階堂医師・山村医師が遺伝専門医として在籍しています。
私自身も「ジェネティックエキスパート」の資格も取得して、エキスパートパネルやレポート作成に活かしています。
一般病院でこれだけ専門職が揃っているのは当院の強みです。
Q6.ゲノム医療を推進したきっかけは何ですか。
遺伝性乳がん卵巣がん(BRCA関連)の保険承認薬が登場し、遺伝情報を診療に活かす重要性が高まったことです。
医師が診察の合間に時間をかけて説明するのは難しく、「専門的に伝える担い手」が必要だと考え、自ら大学院へ進学し資格を取得しました。
Q7.取り組みの根幹にある思いを教えてください。
「大学病院だけでなく、地域の病院でも当たり前にゲノム医療にアクセスできる体制を作りたい」という思いです。
早め早めに体制を整えておくことが、地域の患者さんの利益になると信じています。
Q8.「がん遺伝子パネル検査」と「マルチ遺伝子パネル検査」はどう違うのですか。
混同されやすいのですが別物です。
「がん遺伝子パネル検査」はがん細胞の変化を調べ、薬を選ぶための保険適用検査です。
一方「マルチ遺伝子パネル検査」は生まれながらの体質(がんを発症するリスク等)を調べる自費検査です。
Q9.「遺伝」という言葉に不安を感じる方も多いのでは?
海外では「バリアント(多様性)」と捉えるのが一般的です。
遺伝子の違いは必ずしも病気ではなく、その人の「個性・多様性」です。
必要以上に不安が強くならないよう、平易な言葉で説明するよう心がけています。
Q10. カウンセリングで工夫していることはありますか。
月平均約20件、1回1時間を確保しています。
いきなり説明せず「今どう感じていますか」と傾聴することから始めます。
途中で理解度を確認し、ご家族の同席や、後日の再説明にも柔軟に対応しています。
Q11. 院内チームの連携について教えてください。
がんゲノム医療コーディネーター(古谷看護師、村上看護師、池島看護師、濵口看護師)や、迅速な検体処理を支える臨床検査技術科(髙瀬技師、福原技師、宮﨑技師、石橋技師、鈴木技師、茂山技師、井櫻技師、伊藤技師)、そして事務職員(茶谷さん、真田さん)の協力が不可欠です。
私が登録作業を一括して担うことで医師の負担を減らし、チーム一丸となって検査件数を伸ばしています。
Q12. 具体的な成果や実績はありますか。
薬剤・治験への到達率は全国平均が約10%と言われる中、当院は約14%という高い実績を上げています。
治験や臨床試験につながるケースが増えていることが影響していると思います。
Q13. 受診したい場合の流れはどうなりますか。
主治医の先生から地域連携を通じて予約していただければ受診可能です。
不明点があれば、ゲノム医療の窓口として私が直接お電話での相談にも対応しています。
Q14. 遺伝医療において最も大切にしているスタンスは何ですか。
「検査を受けるかどうかを選択ができるよう、一人ひとりの思いに寄り添う」ということです。
「知らないでいる権利」も尊重します。
正しい情報を伝え、その人が納得して人生の選択ができるよう、意思決定を全力でサポートします。
Beyond the White Coat
― 白衣の向こう側 ―
ここからは、医療や仕事の話から少し離れて、休日の過ごし方や好きなものなど、日常のひとコマから見えてくるスタッフの人となりや、ちょっと意外な一面をご紹介します。

*趣味
最近はガーデニングに夢中で、近隣のショップに通って野菜やブルーベリーを育てています。
フラワーショップ ロベリア(堺市南区和田)やハンズマン(松原市)に行くことが楽しみです。



*おすすめのお店
フレンチおでんとソース料理とワインのお店「赤白」です。
フレンチおでんの大根ポルチーニ茸のクリームソースとワインの組み合わせがお気に入りです。