市立堺病院感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)は1993年に発足し、まもなく20年目の活動を迎えます。当初は単にMRSAの症例数を数えるという初歩的な活動からスタートしましたが、徐々に活動を積み重ね、2000年にはリンクナース制度が発足、2003年には事務職員がICTメンバーに加わり、さらに2006年には専従の感染管理看護師(Infection Control Nurse :ICN)が誕生して、ICT活動の質と量を強化してきました。
私たちは、医療関連感染から患者さんの命を守り、さらには私たち医療従事者自身の安全を守るために日々活動しています。市立堺病院ICT活動の到達点と今後の展望について紹介したいと思います。
メンバー構成
医師3名(感染管理医師3名)、看護師5名(うち感染管理認定看護師3名(専従、専任、兼任が1名ずつ))、検査技師1名(感染制御認定臨床微生物検査技師)、薬剤師1名(感染制御専門薬剤師)、事務職員1名の計11名で構成しています。リンクナースは、各病棟、ICU、手術部、外来部門、中央部門に各1名、計13名おり、ICTと一体となって活動しています。リンクナースは、文字通り各部門とICTを繋ぐ現場のリーダーです。当初、任期は2年としていましたが、この方式では毎年半数が入れ替わるために、活動の継続と蓄積が難しく、2003年より2名について任期を3年に延長しました。
活動内容
医療関連感染を予防する柱は、第一に、手指消毒や手洗い、状況に応じた手袋、エプロンやガウン、マスクの着用など、いわゆる標準予防策や感染経路別予防策の徹底にあり、第二に抗菌薬の適正使用にあります。
市立堺病院ICT/リンクナースの活動内容を表1に示します。
表1:市立堺病院ICT/リンクナースの活動内容
- 医療関連感染症例への対応(症例の調査、主治医・看護師への助言、指導)
- ICTラウンド(1回/週)
- リンクナースによる相互チェックラウンド
- ICT定例会(1回/月)、ICT/リンクナース合同会(1回/月)
- 標準予防策、感染経路別予防策の条件整備
- サーベイランス
- 職員の教育
- 職員へのワクチン接種
- ICT連絡薬剤の運用
- マニュアルの策定
- 抗菌薬採用時の薬事小委員会参加
- 抗菌薬使用のコンサルティング
- ICTニュースの発行(回/月)
活動内容の実際
(1)医療関連感染症例への対応、職員への助言と指導
サーベイランス対象(表2)としている細菌が培養検査で認められると、リアルタイムに情報が細菌検査室からICNとリンクナース、主治医に伝達されます。さらにICNから感染管理医師(Infection Control Doctor:ICD)に連絡されます。また毎週1回のICTラウンドの際には、リンクナースが個々の症例の報告を行います。急を要する場合や、現場が困っている場合などは、ICNが速やかに現場に足を運んでリンクナースや担当者と話し合います。
とくに多剤耐性菌が認められたときには、ICTは速やかに関連科の医師、関連病棟のリンクナース、師長、担当看護師に集まってもらい、感染経路の解明と徹底した封じ込めを行うための対策を話し合います。
発生報告書は、かつては主治医が記載し提出するシステムとしていましたが、(1)リアルタイム性に欠けること、(2)内容の統一性の確保が難しいこと、(3)ICT回診で漏れなく症例の把握ができること、などの理由で1997年に廃止し、ICTがデータ票を記載するシステムに変更しました。さらに2000年からデータ票の記載はリンクナースの任務と変わりました。
表2:ターゲットサーベイランスの項目
- MRSA
- IPM・CAZ耐性緑膿菌
- ESBL産生菌
- VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)
- クロストリジウム・ディフィシル
- 結核菌
- 菌血症
- 入院患者の下痢症
- 転入患者の皮膚病変
(2)ICTラウンド(1回/週)
週1回、火曜日の午後、専任および兼任ICN、ICD、薬剤師、検査技師で全病棟ラウンドを行っています。各病棟を順に回り、以下の3つの範疇の症例について、リンクナースから症例報告を受けてディスカッションを行います。
- (A) ターゲットサーベイランス対象の症例(表2)
- (B) 「ICT連絡薬剤」が使用されている症例(表3)
- (C) 感染症サーベイランス対象の症例(表4)

表3:ICT連絡薬剤
- カルバペネム系(イミペネム/シラスタチン、パニベネム/ベタミプロン、メロペネム)
- 第4世代セフェム系(セフェピム)
- 超広域ペニシリン系(ピペラシリン/タゾバクタム)
- 注射用ニューキノロン系(シプロフロキサシン、パズフロキサシン)
- 抗MRSA薬(バンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリド)
- MRSA除菌用軟膏(ムピロシン)
(B)の「ICT連絡薬剤」については(8) で詳しく述べます。リンクナースはこれらの薬剤が使用されている症例について以下の方法で情報を入手し、ICTラウンド時に症例提示します。(1) 電子カルテの共有フォルダ内に薬剤師が管理する「ICT連絡薬剤使用患者リスト」があり、日々更新されています。(2) リンクナースはこのデータベースにアクセスして自分の病棟の該当患者を把握し、予め調べておきます。そして (3)ラウンド時に症例の報告を行います。その上で(4) ICTは、診療内容、検査結果、抗菌薬の選択などのチェックを行います。
さらに2001年から、感染管理に関わる諸項目、たとえば速乾性アルコール、液体石鹸、紙タオルがきちんと配備されているか、ハザードボックスの管理はよいか、水回りに物品を置いていないか、などチェックリストを作り、ICTラウンド時に点検しています。
ICTラウンドを行う上で大切なことは、病院管理者がこれらの仕事をICT、リンクナースの正規業務として認め、勤務表に反映させることです。すなわち、火曜日の午後は勤務表の中に「ICT」と記載して他の業務と同等の一単位として扱うことが重要です。
(3)ICT定例会(1回/月)、ICT/リンクナース合同会(1回/月)
ICT/リンクナース合同会は、毎月1回、第1火曜日のICTラウンド終了後に行っています。検査技師から耐性菌データ、各リンクナースから耐性菌や情報を共有すべき症例の報告があり、薬剤師から病棟別/抗菌薬使用量が報告されます。リンクナースは3グループに分かれて活動しますが、2010年から隔月に他グループの病棟や部門をラウンドして相互チェックする試みを始めました。良い点、改善すべき点をデジタルカメラに撮り、合同会で報告します。リンクナースが他者を評価する側に回ることは自らのレベルアップに大きく寄与すると考えます。
ICT定例会/感染症対策委員会の合同会は、毎月第4水曜日に行っています。大項目の承認、決定とともに、ICT/リンクナース合同会での議題の整理や事務的処理、確認など事務局会的な性格も併せ持っています。

(4)標準予防策、感染経路別予防策の条件整備
a) 手洗い、手指消毒のための設備

1996年、新病院移転時、全病室に水道とシンクが設けられたにもかかわらず、速乾性アルコールによる手指消毒のみで、流水下手洗いはナースステーションでしか行うことができませんでした。まず1998年、病院当局との交渉により、個室に限り、しかも接触感染隔離を行う場合にのみ液体石鹸と紙タオルの設置が認められました。その後、2000年から全病室に液体石鹸、紙タオル、手袋2サイズを常置しています(写真3)。
2002年アメリカ疾病対策予防センター(CDC)の手指消毒に関するガイドラインが大きく改定され、速乾性アルコールによる手指消毒がより重要視されるようになりました。しかし、目に見える汚染の生じた場合には流水下手洗いが推奨されており、速乾性アルコールによる手指消毒と流水下手洗いを場合によって使い分ける必要があります。そのための水道設備の重要性は変わっていません。
b) ビニールエプロンの単回使用
2005年より接触感染予防策、標準予防策におけるビニールエプロンの着用を単回使用に変更しました。従来はコストの問題から「1日1回の交換、目に見える汚染のある場合はすぐに廃棄する」とする運用でした。しかし、患者さんからMRSAを分離した場合、たとえ保菌であっても、病室の周辺環境には高頻度にMRSAが付着していることが知られています。一度使用したエプロンを再び着ると、白衣や手指への汚染を避けがたいと考えられ、単回使用の方針としました。壁面にディスペンサーを取り付けることができ、省スペースです(写真4)。ガウンについても2008年より単回使用としました。

c) 血流感染対策
2003年より、中心血管ルート確保時の感染予防策として、マキシマム・バリアプレコーション(滅菌ガウン、滅菌手袋、マスク、帽子、大きな滅菌ドレープ)を開始しました。また、同年中心血管ルートに限って閉鎖式輸液回路を導入しました。中心カテーテル関連血流感染サーベイランスは2006年より開始しました。
d) 空気感染対策
1998年、一般病棟に陰圧個室を1室新設(排気用換気扇の強化により)し、翌1999年さらに3室増設しました(それぞれ換気回数は約6回/時間)。次いで2000年、気管支鏡検査室の陰圧化(約12回/時間)を行い、2002年救急病棟に1室、その後計3室の陰圧室(約7回/時間)を新設しました。ICUにはもともと1室の陰圧室が備えてありました。さらに、2003年にはSARS対策の一環として、感染症病棟の1、2類感染症用病室の換気能力をそれぞれ約14回/時間、約7回/時間に改善しました。
その後,2007年に救急外来に1室、人工透析室に1室の陰圧室を設け、2009年に小児病棟に1室、さらに2010年一般病棟の陰圧個室を8室,増設しました。これにより空気感染対策としての陰圧設備の配置はほぼ完了しました。
ツベルクリン反応2段階試験は、2000年に全職員の検査を実施し、その後、毎年の新採用者にも行っていましたが、2009年6月に廃止しました。現在は結核による医療関連感染が疑われる事例が発生したときに、適宜クオンティフェロン検査を実施する体制へと変更しています。
e) 針刺し対策
2004年より移動式ハザードBOX(愛称"大五郎")を導入しました(写真5)。既存のハザードBOXをキャスター付き金属製台に乗せたものです。上部は金属格子でカバーしています。ベッドサイドまで持参してリキャップせずに針を廃棄します。長い注射針や大きな注射器付きの場合でも容易に廃棄することができます。
翼状針は安全装置付きのものを採用しており、採血時は真空採血管を利用しています。静脈留置針の安全装置付きは採用していません。その代わり"大五郎"の使用を義務つけています。


また、2005年より、看護師がベッドサイドで用いる全てのコンピュータカートに携帯用ハザードボックス(写真6)を配備しました。注射針はリキャップせず、注射器と一体のまま、使用したその場で廃棄します。
(5)サーベイランス
市立堺病院ICTの実施しているサーベイランスは表4のとおりです。
表4:市立堺病院ICTの実施しているサーベイランス
- 細菌検査(分離菌、抗菌薬感受性)
- 抗菌薬使用量
- 6種の細菌(表2参照)
- 菌血症
- 手術部位感染(胃、大腸、肝)
- 中心カテーテル関連血流感染症
- カテーテル関連尿路感染症
- 人工呼吸器関連肺炎
a) 細菌検査(分離菌、抗菌薬感受性)
細菌検査データについては、2005年より主な細菌の抗菌薬感受性率や耐性菌率を電子カルテ上のアイコンをクリックすることで簡単に参照できるようにしました。また、2007年より、外来と入院の区別ではなく、市中株(入院後72時間まで) と院内株に分類して表示するよう変更しました。
各医療機関が自分の施設の抗菌薬感受性率のデータ(antibiogram)を備えることは、より良い抗菌薬の選択に重要です。抗菌薬感受性に関する全国調査の結果や成書の記載は参考にはなりますが、施設ごとに薬剤感受性には特徴("local factor")があり、各施設のデータに合わせて第1選択薬を決定した方が良いからです。
b) 抗菌薬使用量
ICT/リンクナース合同会では、薬剤師から注射用抗菌薬の毎月の使用量が種類別・病棟別に報告されます。またこの結果はICTニュースに掲載されます。
c) 6種の細菌
表2に示しました(前述)。
d) 菌血症
菌血症はリアルタイムで把握する必要があります。菌血症の多くは、もともとの感染巣に由来する二次的な菌血症ですが、一方、医療関連感染としての血流感染 (bloodstream infection :BSI) を早期につかまえるには真のリアルタイム性が求められます。同じ病棟で同じ菌種による菌血症が2例以上連続して発生した場合には、細菌室の検査技師が直ちにICNに連絡します。
e) 手術部位感染(surgical site infection:SSI)
1997年、胃手術と開腹胆摘術を対象としたSSIサーベイランスを開始しました。上部消化管手術のSSIサーベイランスは全国に先駆けて取り組みました。さらに、2001年より全国規模のサーベイランス(JNIS(日本病院感染サーベイランス)、現在JHAIS(日本医療関連感染サーベイランス))に参加しています。2003年には泌尿器科手術、さらに一時外科の手術すべてに対象を拡大しましたが、2005年より再び対象を絞り、胃、大腸、肝臓に限定しました。対象手術が多すぎると、データ収集、分析に多大の労力を必要とします。サーベイランスの目的は感染率を減少させることですから、危険因子を明らかにできる症例数が得られるならば、それ以上にサーベイランスの規模を大きくする必要はありません。
本院では、継続した分析により、上部消化管手術では、術後ドレーンの留置日数が最も大きく手術部位感染に関わることが明らかとなりました。そして、(a) 病棟での術後創処置における手洗いと手袋着用の徹底、(b) ドレーンの早期抜去、(c) ドレーン刺入部の密閉ドレッシングなどによって、感染率の減少を達成することができました。
また下部消化管手術では、手術の最終段階である閉創時に器械(手術に用いる道具)を新しいものに交換することが感染率を低下させることが分かり、2010年7月より実行しています。
サーベイランス結果は、(6) a)の全職員対象学習会で公に報告されます。情報や得られた教訓が他部門の職員にも共有され、意義が大きいと考えます。今後もサーベイランスによって定量的に感染率を監視してゆく必要があると考えています。
f) 中心カテーテル関連血流感染症
2006年より内科病棟において、2010年から外科病棟においてサーベイランスを開始しました。
側管注射の際の手袋着用、十分なアルコール消毒の徹底、緊急時など清潔でない状況下で中心カテーテルを留置した場合の48時間以内の再留置、などの対策をとりました。
また、皮膚消毒薬については、10%ポピドンヨードから有効性が高いと言われる1%グルコン酸クロルヘキシジンへの変更を検討しましたが、後者が無色透明であることから、留置時にヘパリン加生理食塩水などと間違える危険があるため、採用を保留としました。業者にその点を申し入れ、着色した製剤の開発を検討してもらっています。
g) カテーテル関連尿路感染症
2010年7月よりサーベイランスを開始しました。
h) 人工呼吸器関連肺炎
2010年7月よりサーベイランスを開始しました。
i) アウトブレイク検知ソフトの利用
アウトブレイク検知機能を持つソフトを電子カルテシステムに新らたに組み込み、2006年10月から運用を開始しました。ICNが毎日の業務として監視を行います。
(6)職員の教育
a) 学習会
2000年より医療関連感染対策に関わる学習会への"全員参加"が義務付けられました。義務としたのは、患者、職員の安全に関わる事項を扱うという点で通常の学習会とは目的が異なるからです。完全に同じ内容の学習会を曜日を変えて5回実施し、実際に全職員が参加できるよう配慮しています。また、4回の学習会が終了した時点で、部門毎の未参加者リストを各部局長に示して、最終の学習会への参加を促すよう依頼しています。
また、看護助手、事務系職員に対しては、技術系職員とは別内容の学習会をやはり複数回設けています。
内容が参加者にとって魅力的なものになるよう、動画クイズを用いたり、双方向の問題解答形式にしたり、毎年工夫を重ねています。
2000年から11年間の職種別学習会参加率を示します(表5)。

| 医師 | 看護師 | 薬剤師 | 技師 | |
|---|---|---|---|---|
| 2000年 | 89 | 91 | 100 | 90 |
| 2001年 | 93 | 81 | 96 | 78 |
| 2002年 | 88 | 91 | 95 | 69 |
| 2003年 | 95 | 90 | 100 | 93 |
| 2004年 | 88 | 91 | 100 | 83 |
| 2005年 | 89 | 90 | 100 | 85 |
| 2006年 | 89 | 94 | 92 | 89 |
| 2007年 | 94 | 95 | 95 | 90 |
| 2008年 | 77 | 82 | 90 | 79 |
| 2009年 | 94 | 90 | 95 | 88 |
| 2010年 | 98 | 92 | 100 | 91 |
b) 医師によるグラム染色
市立堺病院では、細菌検査室以外にもう1か所、グラム染色を行うことのできる場所を設け、医師が自らグラム染色を実施するよう、教育、推奨しています。
グラム染色は、約10分で簡単に行なえ、臨床上重要な起炎菌の多くを鑑別することができます。良質の検体であれば、培養との一致率は高く、ときに培養よりも正しい情報を与えてくれる場合もあります。グラム染色で起炎菌を推定できれば、むやみに広範囲スペクトラムの薬剤を用いなくても、狭域の抗菌薬で十分な治療が可能です。

また、2004年の新卒後臨床研修制度の導入時より、研修医による「グラム染色係」を設けて、主治医が忙しさのために自ら染色できない場合でも、当番研修医が代って染色と鏡検を行うシステムを導入しています。主治医は自らの労力なしに抗菌薬選択のための有用な情報を得ることができ、他方、研修医は短期間に多くの症例のグラム染色・鏡検の経験を積むことができます。双方にメリットのあるシステムです。
(7)職員へのワクチン接種
従来より行ってきた職員に対するB型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルスのワクチン接種に加えて、2005年より麻疹、風疹、水痘、ムンプスに対するワクチン接種も開始しました。初年度は対象を新採用看護師、1~2年目研修医、小児科病棟/外来の看護師に限定しましたが、2006年より新採用全職員に対象を拡大しました。
さらに、2010年から新採用者には就労前に抗体検査とワクチン接種を済ませておくように連絡(義務ではなく強い推奨)をしています。
(8)ICT連絡薬剤の運用
市立堺病院では1996年、一部の抗菌薬を対象として処方前にICDとのディスカッションを義務付けるシステムを採用しました。2006年10月には、対象薬剤を拡大し、システム全体を大きく改めました。
現在、対象となっている抗菌薬は表6に示す12剤です。これらは大きく2つに分類されます。すなわち、(1)感染管理医師(ICD)に連絡をとらなければならない薬剤、(2)薬物血中濃度モニタリング(TDM)担当薬剤師(ICTメンバー)に連絡をとらなけらばならない薬剤の2種類です。
主治医は処方前に院内PHSでICDまたはTDM担当薬剤師に連絡をとり、患者の基礎疾患、感染症名、状態、細菌検査結果、ICT連絡薬剤の必要性などについて話し合います。話し合いの結果、その薬剤の使用が妥当と判断されれば処方が実行されますが、ICDが他の治療法を推奨することもあります。またバンコマイシンなどの抗MRSA薬についてはTDM担当薬剤師がゲートキーパー的な役割を果たし、症例によってはICDに薬剤の要否や治療内容について判断を仰ぐこともあります。
夜間、休日などの時間外の連絡はその時点では不要とし、翌日または翌週に連絡を行う運用にしています。また発熱性好中球減少症においては、メロペネム、セフェピム以外の抗菌薬は連絡なしで使用してよい取り決めにしています。
欧米では、このような抗菌薬の使用許可制をとっている病院が多く見られます。わが国においても、近年抗菌薬の使用制限や届出制などを設ける医療機関が急速に増加しつつあります。コンサルテーションが行われて、かつ却下される症例は多くはありません。医師が第三者である医師や薬剤師に対してコンサルテーションを行うというシステムそのものが不適切な抗菌薬の使用を抑制していると考えます。
表6:ICT連絡薬剤の2分類
A.ICDへの連絡を必要とする抗菌薬
- イミペネム/シラスタチン(カルバペネム系)
- パニペネム/ベタミプロン(カルバペネム系)
- メロペネム(カルバペネム系)
- ピペラシリン/タゾバクタム(超広域ペニシリン系)
- セフェピム(第4世代セフェム系)
- シプロフロキサシン(ニューキノロン系(注射))
- パズフロキサシン(ニューキノロン系(注射))
- リネゾリド(オキサゾリジノン系)
- ムピロシン(MRSA除菌用軟膏)
B.TDM担当薬剤師への連絡を必要とする抗菌薬
- バンコマイシン(グリコペプチド系)
- テイコプラニン(グリコペプチド系)
- アルベカシン(アミノグリコシド系)
(9)マニュアルの策定
接触感染対策、空気感染対策、疥癬対策、MRSA陽性のまま退院する場合の指導マニュアルなど、各種マニュアルを作成しています。
(10)抗菌薬採用時の薬事小委員会参加
1993年ICT発足の年から、新しい抗菌薬の採用申請があった場合、チームとして薬事小委員会に参加し、感染管理の立場から意見を述べています。その抗菌薬の必要性の有無、既存薬との比較、乱用防止のため院内での適用を制限する必要がないか、などについてICTとしての意見を述べます。採用を希望する医師とICTとで意見が大きく食い違うことも少なくありません。議論の内容によっては却下になることもありますし、また、前述の「ICT連絡薬剤」に指定した上で採用になることもあります。
(11)抗菌薬使用のコンサルティング
個々の症例のコンサルティングも適宜行っています。ICT連絡薬剤の連絡と一緒に相談がある場合、またICDが感染症医としての相談を受ける場合の2つがあります。
(12)ICTニュースの発行
ほぼ毎月、ICTニュースを発行しています。すでに150号を越える刊行となりました。しかし、このような印刷物はあくまでも補助的な手段であって、これらの発行に過大なエネルギーを割くべきでないと考えています。それよりも各科や各部門において小グループの話し合いや教育を繰り返すこと、サーベイランス結果をフィードバックすること等に精力を注いだ方が大切であると考えています。
私たちICT/リンクナースの現在の課題を表7に示します。
ひとつの課題を解決するにも多くの時間と努力を要します。また活動が横断的であるために様々の摩擦も生じえます。さらに費用対効果の視点も欠かせません。
医療関連感染対策は、新しい器材やシステムの導入にとどまらず、医療従事者自身の変革のプロセスでもあります。したがって、さまざまの改革は周囲の理解を得ながら、地道に前進させてゆくことが大切であると考えます。
表7:市立堺病院ICT/リンクナース 今後の課題
- 標準予防策(とくに手指消毒、手洗い、手袋着用)のさらなる徹底
- 病棟での一次洗浄、一次消毒の完全廃止
- 職員教育(重要な基本動作での感染予防)のさらなる徹底
- MRSA分離率の低減
担当医師・スタッフ
- 藤本 卓司(ふじもと たくし) 総合内科部長/感染管理医師
- 岡村 隆行(おかむら たかゆき) 小児科部長/感染管理医師
- 岸本 朋乃(きしもと ともの) 女性科部長/感染管理医師
- 上山﨑 みちる(かみやまさき みちる) 感染管理認定看護師
- 西原 美里(にしはら みさと) 感染管理認定看護師
- 松田 祥子(まつだ しょうこ) 感染管理認定看護師
- 塩賀 朋子(しおが ともこ) 外科病棟師長
- 三田 洋子(みた ようこ) 内科外来師長
- 安井 友佳子(やすい ゆかこ) 感染制御専門薬剤師
- 和泉 多映子(いずみ たえこ) 感染制御認定臨床微生物検査技師
研究発表
| 藤本卓司 ほか | 胃手術の創感染サーベイランス | 環境感染 14:196-199,1999 |
|---|---|---|
| 阿南節子 ほか | 抗菌薬の使用制限に関する医師アンケート調査 | 環境感染 16:225-229,2001 |
| 吉野喜代恵 ほか | 市立堺病院におけるリンクナース制度とその活動 | 環境感染 18:271-274,2003 |
| 清水潤三 ほか | 胃手術に対する5年間の 手術部位感染サーベイランス結果 |
環境感染 19:301-305,2004 |
| 安井友佳子 ほか | 低アルブミン血症患者を対象とした遊離型薬物濃度に もとづくTeicoplanin負荷投与量の提案 |
日本環境感染学会誌 23:19-26,2008 |
| 上山﨑みちる ほか | 転入患者を対象とした3ヶ所の培養検査による MRSAアクティブサーベイランス |
第24回日本環境感染学会総会 2009.2.27 |
|---|---|---|
| 安井友佳子 ほか | ICT連絡薬剤の意義と運用の現状 | 第25回日本環境感染学会総会 2010.2.5 |
| 藤本卓司 | 大阪府病院薬剤師会第6支部研修会 「抗菌薬の上手な使い方・使い分け」 |
あべのメディックス 2011.2.23 |
|---|---|---|
| 藤本卓司 | 愛知県厚生連海南病院 感染対策研修会 「明日からの診療・看護に活かそう!医療関連感染予防の具体策」 |
海南病院 2011.6.9 |
| 藤本卓司 | 原田病院 感染対策研修会 「クイズで学ぼう!感染対策のABC」 |
原田病院 2011.6.24 |
| 藤本卓司 | 第8回信州ICセミナー 「ここまでできる!リンクナースの鍛え方/育て方」 |
長野縣護國神社美須々会館 2011.7.9 |
| 藤本卓司 | 大阪赤十字病院院内感染防止講演会 「診療と看護における感染予防策の実践~患者の生命を守るために~」 |
大阪赤十字病院 2011.11.10 |






